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連載コラム

天才鬼才インタビュー
カントクたちがAVを撮る理由

第13回 伊勢鱗太朗(前編)
「ブルーフィルムで処女AV」
監督

アダルトビデオ黄金期が始まる1980年代の半ば、AVメーカーの老舗のひとつであるKUKIは気鋭の映像作家が個性を発揮していた。その中心にいたのが「イセリン」こと伊勢鱗太朗監督だ。現在はルビーで熟女物を撮り続けている彼の作品は、いつだってトリッキーで先鋭的だ。いかにして「カルト」的名作は生まれるのか、イセリンに直撃した。

──ごぶさたしてました。約10年ぶりですね。本日は、伝説のカルトAV監督に作品作りの秘密をうかがいに来たんです。

「いやいやいや、今日は酒の席じゃないから緊張する。口下手なのでよろしくお願いします」

──こちらこそ! まず伊勢さんのAVは基本的にB級映画の香りが魅力のピカレスク・ロマンじゃないですか。何の影響によるものなのでしょう。

「始まりは高倉健さんの東映のギャング映画。子供の頃に近所の年上の女の子に映画館に連れてってもらったんです。メインは大川橋蔵の時代劇で、添え物にギャング映画という2本立てだった」

──客席は大川橋蔵ファンの女性が大半で?

「そう。それで『遊民街の銃弾』(1962年)というギャング映画を見て、時代劇よりこっちのほうがカッコいいなぁと思った。丹波哲郎が主演で、健さんが準主役。その健さんが『宮本武蔵』シリーズで佐々木小次郎役に抜擢されて、そこから『人生劇場 飛車角』『網走番外地』とスターになっていくのをリアルタイムで見たわけです」

──東映時代の健さんの映画の影響は作品に色濃く反映されていますねぇ。それで伊勢さんは大学中退して、映画監督をめざした?

「うん。最初テレビ番組の制作などを請け負う会社に入ったの。映画監督になるのはけっこう時間が長くかかるじゃない、待ってらんねぇなと思って。ちょうどその頃ビデオが普及してきた。これだったらイケるだろって思ったの。コアラのブームのときにオーストラリアからフィルムを買ってきて、歌手のイルカがナレーションを担当する番組を制作したりしてたんだよ。その頃、KUKIの先代社長の中川徳章さんと飲み屋で知り合ってさ」

──この枠でインタビューさせてもらった豊田薫監督もKUKIの中川社長との出会いが業界入りのきっかけでした。その制作会社が倒産してKUKIに入ったんでしたっけ?

「倒産する前に辞めた。中川さんはブルーフィルムを集めていて、それを編集したAVを出そうとしていたの」

──それが伊勢さんの処女AV『風俗小型映画』なんですね。日本各地を巡って、関係者にも取材したという。

「うん。『風俗小型映画』のための取材をしていたころ、当時AVは『生撮り』っていわれてたんだけど、『生撮り作る人間がいないから伊勢君やってくれないかな?』と声をかけられたのが始まりです」

──僕は未見ですが、もはや原盤がKUKIの倉庫にあるのみとなった幻の『風俗小型映画』は三部作なんですよね。

「ブルーフィルム発祥の地の浅草編、それと『土佐のクロサワ』と呼ばれた監督の名作『風立ちぬ』を収録した四国編、あと大阪編。3本を1ヶ月おきにリリースしたんだよ。1984年だったと思う」

──もはやネットでもデータが出てこないですからねぇ。以降、定期的に監督作をリリース?

「当時のKUKIは30分の単体物と、60分の企画編集物があって、その両方を撮るようになりました」

──伊勢さんが手がけた編集物もすごかった。ネガポジ反転させてみたり、意味不明のポエムが出たり。あれはユーザーに飽きられないようにと?

「そうです。バカバカしいことやってた」

──ただのダイジェストじゃなく、ちゃんと語り口があるイセリン作品になっていたのが驚きでした。単体物も、どういう志で撮っていたんですか?

「あの頃の単体作品はイメージ物が主流。本●じゃなくて疑似挿入の時代だったから。ジャッキー(※イセリンと並ぶKUKIの看板監督)は器用だからイメージシーン撮ってカラミが始まるって正攻法をやっていたけど、僕はかったるくてイメージなんて撮りたくないんだ」

──それで一幕物っぽいドラマをやるように?

「そう。お芝居とは無縁の女の子にあえて状況を説明台詞で喋らせた。イメージシーンよりこっちのほうがファンは見たがるんじゃないかと思ったの」

──男と女がバーのカウンターなどで会話するシーンは当時の単体物にはなかった。それもラジオドラマのナレーションかという説明ゼリフ!

「演技できない、感情移入できない、だから全部台詞で状況を説明させた」

──新鮮、斬新、という言葉で批評するしかなかったです、当時。

「そこから中川さんが、ウチもドラマ物をやろうっていいだして、30分物が40分、45分、60分物になっていって、80分物もやるようになったんだよ」

──初期の伊勢さんの傑作『危険に情事』(1987年)は90分でした。平口広美さんがレ●プ魔で、その事件を伝えるニュースキャスターが蛭子能収さんという。サブカル界のスター起用も伊勢作品の売りでした。これは何日撮りだったんですか?

「3日撮り」

──翌年、今はなき『ビデオ・ザ・ワールド』誌の作品賞に輝いた名作『大人は判ってくれない'88』が登場するんですが、これなんか5日撮りの大作。主演のヤクザ役があの田口トモロヲ。採算は取れたんですか?

「取れない。KUKIのイメージアップのためのプロモーション的なものとして成立していたんだよ」


Profile
伊勢鱗太朗(いせりんたろう)
1956年徳島県生まれ。東映ギャング映画に惹かれ、大学中退後は映画の道を志すが、勃興中の新メディアであるAVに転向。AV草創期の梁山泊状態だったメーカー「KUKI」の名物監督として辣腕をふるう。現在はルビーから熟女作品を精力的にリリースしている。


文・沢木毅彦
さわき・たけひこ 1961年生まれ。フリーライター。AV草創期よりAV専門誌にレビュー、取材記事を寄稿。月刊誌、週刊誌、WEBで細々と執筆中。香港映画と香港街歩きマニア。ビールは香港の海鮮屋台で飲むサンミゲル(生力)とブルーガール(藍妹)が最好。
twitter:@berugiisan


放送情報

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